看護の重要コンセプト20
看護分野における概念分析の試み
B5判/392頁
ISBN
9784860347277
発売日
2008年10月30日
誰もが同じ意味でとらえていると思い込んでいる言葉が,実はそれぞれ異なる意味で使っていると思い当たることがある。外来語や新しいコンセプトを示す言葉だけでなく,社会で長い間使われてきた言葉でさえも,少しずつ異なる意味で捉えられていると気づくことがある。それはとりもなおさず言葉のコンセプト自体が多様性に富み,かつ時代や個人の経験で変化する性質をもつことを示している。
本書はこれらの言葉の多様性と多次元性を明確にし,1つの境界線を描くことで,現時点で可能なかぎりの一般化を試みている。コンセプト分析は,1つの職業としての看護の発展に,重要な役割を果たす。本書から得られるものを読者が実践や学びのなかでさらに深め,わが国の看護独自のコンセプト分析を発展させていくために役立てていただきたい。
本文より一部抜粋
日々看護師は現象に出くわし,注目する。現象とは看護師らの感覚を通して知覚される事柄,出来事,活動である。たとえば,病気の子どもの母親が待合室で行きつ戻りつ,爪を噛み,手を握りしめ,顔が蒼白である姿を見る。看護師はそれを認識し,その状態が何かと尋ねられれば,「不安」と表現するだろう。同様に,大都市の病院の看護師は,ある文化的背景の人は決まって予約の時間に大幅に遅れてやってくることに気づいている。同僚たちもそのことに気づいている。これらの患者たちをよく知るようになると,彼らの国では生活のペースはゆっくりと流れていて,大都市の喧噪のなかでは,時間どおりに到着できないのだということを知る。ここでも看護師は,現象を知覚する。これらも他の多くの現象と同様に,看護師にとって,そして看護にとって重要なものである。それらは,知識の基礎を発展させるための苗床である。
看護理論家たちは,必ず現象を知覚することから理論展開を開始する。Orem,Roy,Peplau は現象に注目し,看護師と看護にそれらの観察結果を適応できると考えた。彼らが行ったことは,その現象にラベルを付けたということである。Orem の場合は「セルフケア self care」,Roy は「適応 adaptation」,Peplau は「対人的相互作用 interpersonal interaction」である。これらのラベルがコンセプトであり,それらは理論を組み立てているレンガである。
たいていの理論,とりわけ根本的な理論は,漠然としている。しかし,もしあなたがその1つを顕微鏡で見る機会があるとすれば,それは分子のように見えるかもしれない。まず,ばらばらの存在とならないように,それを取り巻く境界があるだろう。この境界には透過性があって,別の理論と結合できるようになっている。さらに,境界は静的なものではなく,流動的で,理論の内容と焦点が進化,成長できるようになっている。理論の境界の中には多くのコンセプトが含まれていて,理論が活用できるのは,これらのコンセプトが,ペアになったりその他さまざまな形で結びついて,命題を形成しているからである。
理論をコンセプト化する別の方法は,理論をレンガの壁と考えることである。レンガがコンセプトであり,レンガの隙間を埋めるセメントが命題である。命題を展開すればするほど,それらは定義づけられ,コンセプト間の関係性の性質を説明,予測できるようになる。理論を検証する論文は多数あるが,実際には検証されているのは命題であり,理論全体が検証されることはめったにない。たとえばOrem の理論に関連して,研究者はある特定のセルフケア不足(1つのコンセプト)を克服するために,セルフケアの主体(1つのコンセプト)はどのような特性を必要とするかを調べるであろう。ここではOrem の理論全体ではなく,そのなかの1つの命題を調べていることになる。
命題はしばしば,それらを否定する目的で検証される。もし命題がさまざまな設定での試験を生き残るとしても,それは次の検証まで正しいとみなされるにすぎない。命題を調べる方法の1つとして,紙の船を考えてみるといい。船をつくった後,まずは池に浮かべてみて,沈まないかどうかを調べる。何度行っても沈まないとしても,20 回目にはちょっとした突風で沈んでしまうかもしれない。この紙の船は失敗作である。しかし,そこから学んだことを新たに適応して,新しい船をつくることができる。船が浮かぼうが沈もうが,学びは生じ,知識は増えるのである。
紙の船と同様,命題は構築され,検証され,それが失敗するまでさまざまな設定で何度も検証される。このようにして,われわれの知識的基盤の境界は拡大する。したがって「科学=理論+試験」であり,科学は臨床での決断,教育,管理のためのエビデンスの基盤となっている。重要な事実は,これらの努力のすべての礎となるものが,コンセプトだということである。コンセプトなしでは,相互を結びつける命題は存在しないだろう。先ほどの比喩に戻れば,コンセプトがなければ,われわれはレンガもなしに壁をつくるのと同じことになる。材料がないのだ。理論構築も同じである。コンセプトがなければ,われわれは理論構築に不可欠な理論的素材をもっていないことになるのである。
看護理論家たちは,必ず現象を知覚することから理論展開を開始する。Orem,Roy,Peplau は現象に注目し,看護師と看護にそれらの観察結果を適応できると考えた。彼らが行ったことは,その現象にラベルを付けたということである。Orem の場合は「セルフケア self care」,Roy は「適応 adaptation」,Peplau は「対人的相互作用 interpersonal interaction」である。これらのラベルがコンセプトであり,それらは理論を組み立てているレンガである。
たいていの理論,とりわけ根本的な理論は,漠然としている。しかし,もしあなたがその1つを顕微鏡で見る機会があるとすれば,それは分子のように見えるかもしれない。まず,ばらばらの存在とならないように,それを取り巻く境界があるだろう。この境界には透過性があって,別の理論と結合できるようになっている。さらに,境界は静的なものではなく,流動的で,理論の内容と焦点が進化,成長できるようになっている。理論の境界の中には多くのコンセプトが含まれていて,理論が活用できるのは,これらのコンセプトが,ペアになったりその他さまざまな形で結びついて,命題を形成しているからである。
理論をコンセプト化する別の方法は,理論をレンガの壁と考えることである。レンガがコンセプトであり,レンガの隙間を埋めるセメントが命題である。命題を展開すればするほど,それらは定義づけられ,コンセプト間の関係性の性質を説明,予測できるようになる。理論を検証する論文は多数あるが,実際には検証されているのは命題であり,理論全体が検証されることはめったにない。たとえばOrem の理論に関連して,研究者はある特定のセルフケア不足(1つのコンセプト)を克服するために,セルフケアの主体(1つのコンセプト)はどのような特性を必要とするかを調べるであろう。ここではOrem の理論全体ではなく,そのなかの1つの命題を調べていることになる。
命題はしばしば,それらを否定する目的で検証される。もし命題がさまざまな設定での試験を生き残るとしても,それは次の検証まで正しいとみなされるにすぎない。命題を調べる方法の1つとして,紙の船を考えてみるといい。船をつくった後,まずは池に浮かべてみて,沈まないかどうかを調べる。何度行っても沈まないとしても,20 回目にはちょっとした突風で沈んでしまうかもしれない。この紙の船は失敗作である。しかし,そこから学んだことを新たに適応して,新しい船をつくることができる。船が浮かぼうが沈もうが,学びは生じ,知識は増えるのである。
紙の船と同様,命題は構築され,検証され,それが失敗するまでさまざまな設定で何度も検証される。このようにして,われわれの知識的基盤の境界は拡大する。したがって「科学=理論+試験」であり,科学は臨床での決断,教育,管理のためのエビデンスの基盤となっている。重要な事実は,これらの努力のすべての礎となるものが,コンセプトだということである。コンセプトなしでは,相互を結びつける命題は存在しないだろう。先ほどの比喩に戻れば,コンセプトがなければ,われわれはレンガもなしに壁をつくるのと同じことになる。材料がないのだ。理論構築も同じである。コンセプトがなければ,われわれは理論構築に不可欠な理論的素材をもっていないことになるのである。
目次
1 章 コンセプトとその分析に関する導入
2 章 「虐待」のコンセプト分析
3 章 「ケアリング」のコンセプト分析
4 章 「安楽」のコンセプト分析
5 章 「コーピング」のコンセプト分析
6 章 「尊厳」のコンセプト分析
7 章 「共感」のコンセプト分析
8 章 「エンパワメント」のコンセプトの批判的検討
9 章 「ファシリテーション」のコンセプト分析
10 章 実質的有用性アプローチを用いた「疲労」のコンセプトの解説
11 章 「悲嘆」:死別との関連におけるコンセプト分析
12 章 「希望」の批判的分析:多様性を認めるか,あるいは区別するか?
13 章 「ユーモア」のコンセプト分析;「ユーモア」を真摯に捉える
14 章 「寂しさ」のコンセプト分析:死にゆく人との関連性で
15 章 「恥」のコンセプト分析
16 章 「苦痛」の実践的理論をめざして
17 章 「看護支援」のコンセプト分析
18 章 「セラピューティックタッチ」のコンセプト分析
19 章 「治療的人間関係」のコンセプト分析
20 章 「信頼」の理解に向けて
21 章 「脆弱性」のコンセプト分析
22 章 コンセプト分析の進化:われわれはここからどこに向かうか?
コンセプト分析は、1つの職業としての看護の発展に、重要な役割を果たす。本書は、看護における本質的なコンセプトを20項目取り上げ、現時点で可能なかぎりの一般化を試みている。本書から得られるものを読者が実践や学びのなかでさらに深め、わが国の看護独自のコンセプト分析を発展させていくために役立てていただきたい。
ISBN | 9784860347277 |
---|---|
Author Information | 著=John R. Cutcliffe/Hugh P. McKenna/監訳=山田智恵里(元・弘前大学医学部保健学科教授) |
発売日 | 30-10-2008 |
Book Info | B5判/392頁 |